未来抽象芸術展に行ってきました

「 未来抽象芸術展-芸術家の挑戦-新しい芸術は、小さなチャレンジから生まれる」を見に、全労済ホール/スペース・ゼロに行ってきました。新宿駅の南口改札を出て、甲州街道沿いから一つ裏道に入った角のところに会場の入り口を見つけました。 15人の作家が「チャレンジ」をテーマにして制作した作品が展示されているそうです。

展示会場の入口と案内板

展示会場に入ると、ちょうど作家のタシロサトミさんのアーティストトークが、作品の前で始まったところでした。

タシロサトミさん、relationship #19

タシロさんご本人の説明の後、この絵のモチーフについてお尋ねしてみました。最初のころは古びた靴やバッグなどをモチーフにして描いていたのですが、だんだんと抽象化されていって、具体的な物ではなくなっていったのだそうです。とはいえ、抽象化された後も、依然として使い古されたものへの愛着を表現したいという気持ちは変わらないそうで、タイトルの”relationship”には、持ち主と物との関係、という意味もあるそうです。作品の厚みは物の存在感や物質感を強調するのに役立っているようです。鮮やかな原色ではなく、中間色を使っているのもそのため。角が丸くなっているのも、使っているうちに、だんだんと丸みを帯びてくる様子を表現したいのだそうです。

作品の裏側

作品の反対側に回ってみると、意図的にされたものかどうかはわかりませんでしたが、ガラス越しに裏側も良く見えるように展示されていました。角を丸めるところにずいぶんと苦心された痕跡がみられます。なかなか、この作業は大変そうだ。

さて、その隣の展示スペースには丸いテーブルのようなものが置いてありました。テーブルの上には、何やらいろいろなものが、所せましと置いてありました。

日比野猛さん、「在る世界(archetype)」

作家の日比野猛さんによると、会期中ここで作品を実際に制作しているところなのだそうです。真ん中にあるプロペラは、絵の具を乾かすためのもので、電池を接続するとちゃんと回るところを見せてくださいました。その下に漏斗のようなものがありますが、ここに余った残りの絵の具を流すと、下のガラス板に溜まっていずれ自然に乾くのだそうです。左手前の丸みを帯びた板は、型のようなもので、これで同じサイズの作品を何枚も作っているのだそうです。

設計図?

その横には設計図のようなものがありました。かなり精密に計算されているようですが、元となっているのはフィボナッチ数列だとのこと。考えようによっては、数学も抽象表現の一形態といえるのかもしれません。そしてその横には、何故だか裸婦のスケッチがいくつか…。この曲線の形は裸婦のイメージでもあるそうです。わかったような、わからないような…。できあがった作品もさることながら、制作のプロセスや道具のほうもかなり面白いですね。

気が付くと、少し離れた場所では、片桐十三夏さんによるアーチストトークが始まっていました。

アーティストトーク中の 片桐十三夏さんと作品「変化」

大理石の壁に自然光が差し込んで、複雑な形の作品の陰影が、立体感をさらに際立たせているようです。よく見ると作品の表面にも、わずかに窪んだところがありました。溶剤を使うと、表面が少し溶けて窪みができるのだそうです。この作品の制作にあたっては、まずはホームセンターで発砲スチロールを買ってきて、自分でカッターを使って切断するところから始まるそうです。

今日お会いした作家さん達のお話から、抽象的なイメージを表現をするために、具体的な素材や道具と格闘している様子が伝わってきました。表現したいものが抽象的であればあるほど、逆に素材やプロセスについては具体的な物に依存する度合いが強くなっているように感じられたのは、意外でした。 自分の頭の中にしかないイメージを、他の人にできるだけ忠実に伝えるためには、何らかの形で物質を仲介させる必要があり、それは制約といえば制約になっているのかもしれないのですが、何をどのように利用して表現するのか?というところが、それぞれの作家さん達の腕の見せ所であり、オリジナリティーにもなっているようです。既製品であふれている時代にあって、イメージを表現するため、だけのために、気の遠くなるような手間ひまをかけて、物質と格闘し続けているのが、現代アーティストという人たちなのかもしれません。